湯活のススメ

温泉・銭湯・サウナ・岩盤浴等の温浴施設の楽しみ方

閉店|水月ホテル 鴎外温泉|上野|湯活レポート(温泉編)vol.95

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【所在地】東京都台東区池之端3-3-21

Google マップ

【泉質】温泉法上の温泉(メタケイ酸・重炭酸ソーダの項で温泉に適合、弱アルカリ性・冷鉱泉)ph8.4

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【入湯日】2020/5/22
【閉店日】2021/10/15

 

この日は仕事帰りに所用で上野方面に寄ったついでに、水月ホテル鴎外温泉へ行って参りました。実は鴎外温泉は昭和18年以来、約90年の歴史に今月末ピリオドを打つのです。本来であれば、自粛明けにお邪魔するところではありますが、閉店はコロナ以前の規定路線の為、近くに立ち寄ったこの機会を逃すともう見る事は無いと思うと、居ても立ってもいられず、自然と足が向いてしまいました。

 

鴎外温泉は、東京メトロ根津駅下車、2番出口を出て不忍通りを右手へ。

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池之端二丁目交差点を左折。

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すぐ右手に旧都電「池之端七軒町」駅と当時の都電が残されています。

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根津駅より3分程、突き当りに水月ホテル鴎外荘の看板が見えて来ます。

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正面は上野の杜、右手に進むと上野動物園、その先に洋食の名店「精養軒」、少し足を伸ばすと不忍池。近くには黒湯の激熱銭湯「六流鉱泉」もありました。

yukatsu.hatenablog.com

そんな上野の杜の袂に佇む「水月ホテル鴎外荘」は、かの文豪 森鴎外居住跡の所縁でその名を冠し、処女作「舞姫」を執筆した「舞姫の間」がある事で有名です。
入口で大きな森鴎外のパネルが来客を出迎えます。

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中に入るとそこは異世界。

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エントランスに森鴎外の「舞姫」をモチーフにした大きな額が飾ってあります。

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フロントで受付を済ませてタオルを受け取り、いざ鴎外温泉へ。
正面に見える通路を進むと右手に「森鴎外居住の跡」があります。
この中で珠玉の名作が綴られたと思うと胸熱ですね。
こちらは内観は有料の為、中には入らず外観を拝んでそのまま先へ進みます。

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いよいよ冒頭のゲートを抜け目的地「鴎外温泉」に入ります。
入口には歴史を感じさせる調度品の数々。

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この建物の2F奥に鴎外温泉があります。
実は「鴎外温泉」は、都内第一号に認定された温泉という大変貴重な温泉です。
浴室は、天然大理石浴槽の「福の湯」と古代檜漆浴槽の「檜の湯」の2つ。

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この日は「福の湯」が男湯でした。

 

中に入ると先客が一名。年の頃は70代位でしょうか、デップリと、いやガッシリとした体躯で元関取の親方といった体。私の方は、少し離れた場所に陣取り、沐浴で全身お清めを済ませて、先に天然大理石の浴槽へ身を沈めます。

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表の説明書きには『薬湯を髣髴とさせる微かなセピア色』とありましたが、淡い黄金色というところでしょうか。近くの六龍鉱泉は漆黒の黒湯ですので、源泉は淡いモール泉*1なのかも知れません。
化粧水成分のメタケイ酸63.0㎎、重炭酸そうだ(炭酸水素ナトリウム)344.5㎎と共に美肌の湯と言われる成分をダブルで併せ持つ黄金色の美肌の湯で手足を伸ばしてゆったり浸かります。天然大理石の浴槽と薄黄金色の温泉、ただそれだけ。アチラの湯、コチラの湯と湯巡りするのも楽しいですが、何もない分、自粛が続く中、久しぶりの外湯でゆったりと温泉と向き合う、何もない贅沢。たまにはそんなのも悪くないです。

親方は、まだカランの前で手桶に汲んだ湯を一心不乱に体にかけています。随分念入りだなと観察していると、後からもう一人中肉の若者が1名入ってきて、こちらは付き人か新弟子風。こちらで勝手な妄想を巡らせている内に少しのぼせて来て、一旦浴槽を出て冷水シャワーを浴び、少し休憩。

その間に親方が湯船に浸かって、続いて新弟子も湯船へ。と思う間もなく親方は風呂から上がって、そそくさと脱衣場へ出ていきました。洗い場では随分熱心に湯を浴びていたのに、肝心の温泉は烏の行水だなと思いつつ、私の方は、再び浴槽へライド温。暫く浸かっていると今度は新弟子の方も湯船を出て、これまた上がって行ってしまいました。

独泉。誰も居ない大浴場。湯口から零れる源泉の水音と、換気扇がカタカタ鳴る音だけが浴室に響きます。何もない贅沢。誰も居ない寂しさ。鴎外温泉が閉店するからか、この時期だからか、閑古鳥の無く浴室内で何やらセンチメンタルな気分が込み上げて来ます。

再度上がって冷水シャワーで温冷交互浴をし、休憩する間に脱衣所を伺っていると、どうやら親方の方は私服に着替えているようで、日帰り入浴のご近所さんのよう、反対に新弟子の方は浴衣に着替え明らかに宿泊客の様子。出張族か、それとも・・・あらぬ妄想が膨らみかけては萎み、「ま、人の事はいいか」と気分を切り替えて再び湯と向き合います。

三度目の入湯。最後の源泉をじっくり味わい、湯船を出てから、手桶に汲んだ源泉にタオルを浸し、固めに絞って、天然の美肌化粧水液おしぼりで全身を軽く拭きあげて上がりました。

湯上り後、換気の為に解放された脱衣場の窓から、この季節にしては冷たい空気が流れてきて、火照った体には心地よく感じました。脱衣場入口にあるウォーターサーバのキンキンに冷えた冷水も、湯上り後の五臓六腑に染み渡るようでした。

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ちなみに古代檜漆浴槽の「檜の湯」はこんな感じだそうです。
こちらもまた良いですね。古代檜はたまにお目に掛かりますが、漆塗りはお目に掛かった事が無いので、相当珍しいかと思います。

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久し振りに温泉と向き合い、鴎外温泉を後にし、JR上野駅方面へ。
帰路の途中、京成上野駅のコンコースで、メキシコ壁画界の大家、ルイス・ニシザワ氏の手による風月延年のオブジェが目に飛び込んで来ました。

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何やら鯉のぼりを表しているようで、この時期にピッタリと言えなくもないですが、時期が時期だけに、何やらまたセンチメンタルな物が込み上げてきました。

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水月ホテル鴎外温泉は、コロナ禍の緊急事態宣言下での一時休業から再開。
2020/5/31で一度閉館をご決断され、その後、歴史的建造物である「鴎外亭」を維持すべく引き受け手を探していましたが、譲渡は断念され、クラウドファウンディングで2021年初頭より素泊まりに限定し営業を再開されていらっしゃいました。
その後試行錯誤の末、2021/10/15をもって最終的に閉館を決められたそうです。
都内初温泉認定1号の名湯が失われるのは残念ですが、まずはこれまでのご営業や営業再開時のご苦労に感謝したいと思います。

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※浴室内、脱衣場の写真他一部は、施設の許可を頂き、公式HPより拝借させて頂いております。

*1:地下に封じ込められた数億年前の古代海水。石油化前の植物質等を含む為、色は薄茶~黒色を呈し、火山性温泉ではない為、ほとんどが冷鉱泉